方位・羅針盤アンソロジー「廻る針の一夕語り」感想

くまっこさん主催の方位・羅針盤アンソロジー「廻る針の一夕語り」の感想です。
ネタバレ考慮せずガンガン行きますよー!



◆恣意セシルさん「春萌す方」

絵本で読みたくなるような、色彩と奥行きが感じられる世界観にきゅんきゅんしました。
ただの絵本ではなくて、仕掛け絵本。ページをめくるたびにどきどきするような、わくわくがたくさん詰まった仕掛け絵本になったら素敵なのに、と思います。
「世界は予感に満ちていました。それはどこにでもあって、ただ、今は目に見えないだけなのです」とユゥトゥが感じているままの世界。冬の扉が閉まることで冬が終わり、ひばりが春を招く。いいですねぇ。ファンタジー好きにはたまりません(笑)
ムゥルゥとユゥトゥのささやかな冒険も、この素敵な世界ありき。アンソロジーの一作目からテンションだだ上がりでした。


◆猫春さん「魔女の遺品」

おお、四神相応もの!
玄田さんに続き、アキちゃん&青木さんの登場でニヤニヤしていたので、赤松君が現れた時にはヨッシャ! って感じでした(笑)
猫春さんご自身がコメントで「序章のようなもの」と仰っていたとおり、物語としてはまだまだこれから、という具合で、それが少し残念でした。誰か続き書いてくれないかな……。女子大生と土中君がいい感じになるけど、その彼女は「闇」の手先で~みたいなー(他力本願) 結局相思相愛なんだけど、黄竜の力をもってしても彼女を「闇」から切り離すことができなくて、殴り愛みたいになって、タイマンでガチンコ、でも彼女は力を寸止めしたけど土中君は(以下略)


◆マンノンさん「北海道中エルボーバイシクル」

エルボー? って最初は思ってたんですが、「膝栗毛」に対しての「肘自転車」……なんでしょうか。二人と一匹(一羽?)の珍道中。スカイツリーのお膝元にいたはずが、あれよあれよという間に北海道までたどり着いてしまって、その最中にはコンパス売り場を周遊したり、日光観光ガイド(?)があったり自転車豆知識があったり、何だか楽しいノリです。
夢オチの部類で、小説か? と言われると小説じゃないかもしれないけど、勢いとテンポが良くて、あとペンギン駅長が可愛いくて楽しかったです。


◆伊織さん「彗星旅団」

ため息が出るほど端正な短編でした。短い作品なのですが、言葉の連なりがもたらすイメージ喚起力が大きくて、情報量はすごく多いと思います。でも、ごちゃごちゃせずに無駄なくすっきりまとまっている印象です。いしいしんじさんのような。
序盤の「海の色は、シャリシャリとした鋭い光の破片で~鈍色の皺が寄せてばかりの日もあった」に惚れました。海を見たことのある人なら、ばっと絵が浮かぶ一文だと思います。
寂れた遊園地で出会う老人と少年、人気のない遊園地を巡る二人の様子が、まるで絵を見てるように思い浮かびました。夜空を流れるデブリの白い尾、それを見上げる観覧車のゴンドラのちっぽけな二人。
回転木馬と観覧車という「廻る」遊具を取り上げられたことや、時計台の「9人」の星の子たちの演目など、航空宇宙スキーの一人としてはたまらないものがありました。
初読ではちょっと物足りなく思えたけど、二度目三度目は必要十分じゃないか! と(誤読を承知の上で)イメージ映像にうっとりと浸れました。
たぶん、このアンソロではいちばん好きな作品です。


◆日野裕太郎さん「明るいところで光る星」

「彗星旅団」が夜の青ならば、こちらは太陽と砂と荒廃の明るい黄色、というイメージ。登場人物たちが会話をして、獣がいて、都市(地盤)が崩れて風が吹いているのに、圧倒的な静けさが全編を支配していて、その静寂や空白が恐ろしくも美しいお話でした。
死と近しいせいか、畏怖というか、どこか神聖な雰囲気もあって(象や西方浄土という言葉ゆえかもしれません)、ヨムサとコーが救われますようにと思わざるを得ません。


◆相沢ナナコさん「魔女の祝福と人の王」

静けさの余韻をふんわり包み込むような温かく優しいお話でした。
アンソロジーの編集ってセンスがいるなあと改めて思い知るような配置だと思います。仮にこの位置に久地さんの「彼女の右手」が来ていたら、印象が全然違っていたんじゃないでしょうか。

それはさておき。
魔女たちのうち誰かにお声がかからず悲劇が――というような展開を予想していたのですが、外れてよかったです。
狼や鳥、蝶、鯉(竜)といった魔女と心を通わすいきものたちもほのぼのとしていい雰囲気でした。
王様が女王様でしたというのにはちょっとびっくりしました。言葉の力って大きいですねえ。人間と結ばれた魔女、というと、何となくその力は子どもがすべて受け継いで、魔女は力を失う、というようなイメージなのですが、深読みしすぎでしょうか。


◆R・H・恵賭さん「ケントと星のコンパス」

こちらは実写で映像にしたくなるような心温まるお話。
コンパスやヤーヴィルを助けるきっかけとなった手紙、ドルークのおもちゃははじめ両親からの贈り物かと思っていたんですが、違ったんですね。
お父さんとお母さんが人助けをしたのが、ケントへ巡り巡っているのかな。
ふつうのコンパスは常に北を示すものですが、ケントのコンパスが示していたのが両親の愛情、と考えると、すごくしみじみといいなあ、という気分になります。


◆くまっこさん「鈴の音の響くところ」

使い魔さんが登場してから急に駆け足になってしまって、そのままばたばたと終わってしまったのがちょっと残念なのですが、羅針盤をモチーフにした世界観は面白いなと思いました。「蔭季節」とか、世界の中心におわす神さまに供物を捧げる、とか、世界の理を守る、とか、ファンタジー好きにはたまりません!
温石や刺繍の入った祭礼着、鈴音家の名づけやしきたりなど、くまっこさんが丹念にこの物語世界を紡いだことが伝わってくるようで、それだけにラストシーンの性急さが悔しいです……!


◆ななさん「宵闇喫茶」

短編連作でシリーズにできそうなシチュエーションですね。他の案内人(?)さんたちはまた違った形式のお店を開かれてるのかな、と想像が広がります。
今回はバイク乗りの彼がいい人っぽかったので、心和むお話で済みましたが、もっとドロドロした未練を持った、死ぬに死ねないようなひとが相手だと大変だろうなあ……と、飲食店バイト経験から思いました。
あるいは、ドロドロの未練をさっとお代として頂戴して、スムーズに導けるのがやり手のベテランということなのかもしれませんね。宵闇喫茶の彼女も経験を積むことで、死者に感情移入しすぎることなく、かといってドライすぎないよい案内人になるのかなあ、なんて微笑ましく思いました。


◆まりもさん「止まない風」

変わりゆくものと変わらないもの、を思いました。
西の国と東の国、戦争をするほど食い違っていたのに、いざ終戦となるとたちまち文化や経済が融合し、人や物の行き来も盛んになった、そんな社会の変容に向き合わざるを得なくなったカイとリクが、最終的には手を取りあうことができてほっとしました。
カイもリクも、タイプは違えどそれぞれに不器用で、でもまっとうな人なんだなと思わせるエピソードがあちこちに散りばめられており、どちらの立場もわかる読者としてはやきもきしました。でも、このやきもきが小説を読む醍醐味でもあるんですよね。


◆久地加夜子さん「彼女の右手」

夢の描写がすごい怖かったです。こういうのは映像で見せられるより文章で読んで、自分で勝手に怖さを盛ってしまうほうがはるかに印象に残ります。
でも、これ系の恐怖体験を「本来の好奇心も手伝ってか、それほど嫌ではない」と言ってしまえる羽石くん、大物です……。
それでも、この体質(?)のおかげでみすずちゃんと再会できたし、思いを遂げさせてあげることができたんだから、よかったのかな。
腹に一物も二物もありそうな冴木さんも気になりますし、物語の広がりを感じさせます。


◆高村暦さん「時計さん」

一読して、少ししてから余韻がふわーっと広がって、つい二周目に入ってしまう。そんな不思議な魅力を持った短編です。
「時計はね、時間のためだけにあるようなものだから」がすごく好きです。
それこそ携帯やスマホで時間が確認できるようになって久しいですが、時計はすごく好きです(いいものはひとつも持ってませんが)。
話は逸れますが、高校生の時に見た演劇で、登場人物が、死んでしまった恋人から贈られた腕時計(恋人が死んでしまった原因の交通事故で壊れてる)を「これがないと腕が寂しいから」という理由でずっとつけたままにしているというシーンがあります。その設定がストレートに刺さったのを思い出しました。
時計、そして時間はその人に寄り添うものなんだなあ、と。
短い中にも細やかな人間関係や、ものに対する愛情が丁寧に織り込まれていて、時計さんの旅路はきっと穏やかなものであろうと安心するとともに、懐かしいような切ないような気持ちになりました。


◆あずみさん「ネヴァーランドのわたしたち」

ヒコーキもの! 同人界隈ではなかなかお見かけしない航空機ものに出会えただけで、感謝感激です。有難うございます!

と、個人的な嗜好は置いて。
WWⅡ、という時代背景だけで何とはなしに重苦しいものを感じてしまうのですが、リリーもウエンディもATAパイロットの誇りと空を飛ぶことへの情熱と愛情にあふれていて、軽やかな幕開けでした。
私もいくつかテレビ画面の空を飛んで、エースパイロットと呼ばれて調子に乗って、ヒコーキものを書いたこともありましたが、「どうして飛ぶの?」ということ、そして兵器である戦闘機とそれを駆って空を舞う解放感、人殺しと究極の自由の狭間でパイロットたちが何を想うのか、それらについては本当に概念的で、これだ! と文字にできるような答えが浮かびません。空が、飛ぶことが好きだから。こんな幼稚な答えに収まるほど単純ではないのに、ともどかしくなります。
だから、リリーにはすごく感情移入してしまいました。操縦経験なんてないのに、勝手なものです(笑)


◆みやのはるかさん「南の空の、冬の三ツ星」

乾と巽、という名前にニヤニヤし、オリオンの三ツ星にニヤニヤし、不審者のようになってしまったお話です。
どうしてあんなにオリオンの三ツ星は目を引くんでしょうね。
古来からそうだったみたいで、日本各地に三ツ星にまつわる言い伝えがあるそうです。三ツ星の呼び名も地方ごとに違ってたりするみたいで、人は昔も今も、あの凛とした星の並びを同じように見上げてたんだなあ、と不思議な気分になります。
オリオンは蠍から逃れようと必死で、オリオン座と蠍座が同じ空に上ることは決してないんだ、というエピソードが好きです。
見えないけどちゃんといて、光を届けているんですね。


◆泉由良さん「指針と羅針」

普段読むのは小説ばかりで、なかなか詩を読む機会がないのですが、それだけにすとんと胸に落ちるものや、これはどういうことなんだろうかと考えたり、新鮮な気持ちで接することができました。「帰り途」の「世界を創る四つの軸とは/長さと広さと高さと想い」の部分や「あなたへ」が好きです。
特に、このアンソロジー全体が「あなたへ」で締めくくられたのがすごくすごく素敵で、詩ならではのことばの連ね方に痺れました……!




装丁にもすごく力が入っていて、分厚いのですがとても読みやすいアンソロでした。読み手のことを考えておられるなあ、と感心すると同時に、くまっこさんをはじめとする作り手・書き手の方の愛情もぎゅーっと詰まっているようで。
試し読みページを拝見するまでは、「方位・羅針盤アンソロジー」ってどういうことやろう、どんな作品? と戸惑いもあったのですが、読み進めるにつれて、恐れ多くも「私ならどう書くだろう」という方向にシフトしていくような、そんなパワーあふれる一冊でした。
言葉足らずで、しかも興奮に任せて書いた部分も多くて、ちゃんと伝えられるとは思えない拙い感想でしたが、ご容赦ください……。

最後になりましたが、素敵なアンソロジーを有難うございました!


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