歴史小説アンソロジー「日本史C」感想 その3

「史文庫」の唐橋史さん主催の歴史小説アンソロジー、「日本史C」の感想その3です。お待たせしました!
しつこく免責事項をば。

・歴史は不得意です
・小学校で習ったことすら忘れている可能性があります
・最新の歴史的知識は持っていません
・そのくせ歴史小説やテレビ、映画等から偏った知識を得ている可能性があります
・「必携 日本史C・解釈と鑑賞」も読みました
・NHK大河ドラマを最後まで見たためしがありません
・でも「平清盛」はもうすぐ見終えます(あと5話くらい)
・ネタバレは考慮していません



◆庭鳥さん「白い脚」

「曾根崎心中」は以前角田光代さんの本で読みましたが、結末はわかっているのに(正確に言うと結末しか知らない)ぞっとするような美しさ、艶っぽさがあったことを覚えています。死を賛美するわけではないのに、その決断を何人たりとも汚すことあたわず、と尊重されているように感じました。
また、近松がそのように感じた理由としての「白い脚」がすごく印象的に使われていて、筵からのぞく、血を失って白い棒のようになった脚が鮮やかにイメージできました。

その「死」について、赤穂浪士の討ち入りと比較することでインスピレーションを得たというのは歴史クラスタさんならではだと思います。まさに「すごくあたらしい歴史教科書」!
心中への道行の部分が紹介されていますが、ふつうに読んでも美しいことに驚きました。五七調がこうもしっくりくると、日本人の血を感じます(大げさ)。読みあげるとさぞかし凄絶なんだろうなあ。おきん婆さんの隣で正座して聴いていたいような気になります。
近松が白楽天にならっておきん婆さんに読み上げるシーンや、芝居が始まったら竹本座に連れて行ってあげようと思うシーンなど「非情な美しさ」の後の「情」に心が温まりました。


◆巫夏希さん「二刀流の提灯男」

怪談かと思いきや、お江戸ファンタジー!
こうして色々な作品を楽しめるのもアンソロジーならではですね。
喋る妖刀や、無念を晴らすべく提灯男として夜な夜な彷徨う男と、なけなしの贈り物である赤い簪。謎ありいい話ありで、他にもシリーズものとして執筆されているのでしょうか。
ですが逆に、この盛りだくさんな設定が消化しきれていない部分があり、勿体ないと思います。雪斬も無抵抗な相手を斬った(というとめちゃくちゃ悪く聞こえますが)だけなので、提灯男と丁々発止のやりとりがあるとかすれば、物語にめりはりができるのでは。

読み始めた時は怪談かと思い、ガードを固めて読み進めたのですが、いい意味で裏切られました。怖いのが苦手なので、ほっとしてます。


◆鋼雅暁さん「異国の風」

お……お絹かすていらを私にも……! 「日本史C」で初めてのおいしそうな食べもの描写でした。お酒は過去の方々も飲んでらしたけど、古代に遡るほどに調理法は未発達だし、ちゃんとした食べ物は初登場ではないでしょうか。
それにしても、この「かすていら」という一言だけで、異国の香りを感じますね。作品の舞台背景を説明するという意味でも、お絹かすていらの登場はすごく良かったです。

全編通してとても爽やかで、タイトル通り「異国の風」がざっと吹き抜けていくようです(黒船が吹かせた風ではありませんが)。
かすていら(や、もっと他の西洋のお菓子)を食べて大きくなったのだろう英次郎の、異つ国への純粋な好奇心もまるで子供のようにきらきらしていて、これから諸外国へ向けて開かれてゆく、日本という国そのもののように感じます。
コミカルながら重要な役どころの太一郎親分や、オランダご一行の「良い子がいたら、見せる」のスピーディーな様子など、ほのぼのしながら読みました。


◆なぎささん「海より深く空より青く」

原田左之助と言えば、某喧嘩屋のお人のイメージしかなかったのですが、戊辰戦争の混乱の中で亡くなったとか実は生きていたとかいう伝説があったというのは初めて知りました。「奥州女仇討異聞」の所の繰り返しになりますが、死んだと思ってた人が実は……! という盛り上がりはフィクションならではの醍醐味ですね。

兄の死を乗り越えて平和に暮らしたいと願う柚子。
戦火の中、行方の知れない戦友と柚子との間で揺れる左之助。
上野の戦いはかなり一方的で悲惨なものだったようですが、死地をくぐり抜けた柚子と左之助が抱くはるかな新天地と新時代への希望が感じられるような、淡く甘い物語でした。


◆アルトさん「沼辺に佇む」

このあたりになるともう、「ついこのあいだ」というような気になってしまいます。
開国までは、日本の歴史だとわかっていてもどうにも現実感がないのですが、現在につながっている時間だという生々しさが生まれてくるのが、この明治ごろ……というか、日清、日露戦争頃からです(あくまで、私個人の感覚ですが)。

アルトさん「沼辺に佇む」は西園寺公望と原敬が語り合っている、言うなればお芝居のような作品なのですが、飄々とした西園寺の人柄と、それをただ見守るばかりの原、という組み合わせがとても斬新でした。この時代の(実在の)人物が登場する創作作品ってなかなかないような気がします。私のアンテナが反応してないだけかもしれませんが……。
中国、ロシアとの戦争を経て発言力を強める陸軍、明治天皇の崩御、という混乱のさなかにあって、「公の望み」ではなく「(個人としての)望」を万年筆に刻んだ西園寺は、本心ではなにを思っていたのか。原が言うように「深い深い沼」のような静寂と寂寥を感じます。


◆保田嵩史さん「端倪すべからず」

この物語を読んで、説教強盗という言葉を初めて知りました。またもやウィキペさんに頼ると、字のごとく、という感じでしたが。
ミステリ仕立てで、「下間某は女装癖がある」と誘導してからの「実は男装でした」というトリック。松吉が説教であると知っている伊東と、取材に余念がない三浦という関係性も面白かったです。ついうっかり口を滑らせてしまうところとか。

ただ、松吉はいつ、下間が男装の女性であるとわかったんだろう、という点が私にはわからなかったです。「二」の段階では「この家には夫婦が住んでいた筈だ」と考えていて、「三」で女装という結論が出たのち、「四」で松吉は女性としての下間を訪ねています。「三」のラストで松吉が笑ったのは「女装じゃなくて男装なんだぜ」とふたりの勘違いを笑っているのだとも取れますが、松吉が真相を突き止めたという描写がないのが、ちょっと気になりました。でも「端倪すべからず」だし……闇は闇のままでいいのかもしれません。
ラストは私はけっこう好きです。

1928年ごろが舞台とあって、なかなか「歴史」っぽさを出すのが難しい時分だと思うのですが、題材となっている説教強盗や赤旗、梶井基次郎など、時事ネタを盛り込んだ楽しい作品でした。





――というわけで全18作、楽しませていただきました!
最後になりましたが、企画の立案から執筆者の募集、編集、「必携~」の制作、販売とすべてをこなされた主催の唐橋さん、そして執筆陣の皆さまに、改めて感謝を。
素敵なアンソロを有難うございました!



スポンサーサイト