歴史小説アンソロジー「日本史C」感想 その2

「史文庫」の唐橋史さん主催の歴史小説アンソロジー、「日本史C」の感想その2です。
念のため再度免責事項をば。

・歴史は不得意です
・小学校で習ったことすら忘れている可能性があります
・最新の歴史的知識は持っていません
・そのくせ歴史小説やテレビ、映画等から偏った知識を得ている可能性があります
・「必携 日本史C・解釈と鑑賞」も読みました
・NHK大河ドラマを最後まで見たためしがありません
・でも「平清盛」はもうすぐ見終えます(あと5話くらい)
・ネタバレは考慮していません




◆翁納葵さん「祈りの焔立つ時 ~俊寛異聞~」

私が唯一前のめりで食いついたNHK大河ドラマ「平清盛」。前のめりで食いついた割には録画するだけしてまだ追いついてませんが(何年越しだ)、そんなわけでこの作品には勝手に親近感を抱いてしまいました。
(ドラマでは鹿ヶ谷はさらっと流されてたような気がしますが……成親の悪さが際立ってましたねえ。「瓶子が倒れておるわ」とかそういう)
その後鬼界ヶ島に流された俊寛の怨嗟と救いを描く作品ですが、語り口が絶妙です。一瞬、ハードル高いかも? と思いましたがいざ取りかかってみると、音読したくなるようなテンポの良さ。そして言葉がうつくしい。「必携~」を読むと、能や歌舞伎もお好きなご様子で、なるほど納得しました。

この時代、流罪になっても赦免になったりと細かに動きがあるようで(現代とは大違いですねぇ)、せっせと歌を卒塔婆に刻んで流したり、景勝の地を詣でて京への帰還を祈る康頼、成経らの姿はいじましいのですが、俊寛はどちらも我関せずを決め込んでいます。罪を罪と思っていなかったと文中にありますが、「何で俺が」「おのれ清盛め」という心もちだったのでしょうか。
康頼、成経だけが京へ戻されてのち、とうに信心など忘れていた俊寛が鬼と化すも、有王によって人の心を取り戻し、やがては弔われて浄土へと旅立ってゆく。このラストが清々しくてしんみりします。人外燃えとしてはたまらない展開です。
このエピソードを扱った能、歌舞伎もあるとのこと、興味はあるのですが、やはりハードルが……っ!


◆緑川出口さん「おやこ六弥太」

SF! と舞い上がった私がおります。(私だけかな……)
「日本史C」では他にないタイプの作品ですね。小平六、六弥太については知識がなかったのですが、互いに矛盾する伝承や史料からこのような解を導かれた、その発想が素晴らしいと思いました。
物語というには起伏が乏しく感じましたが、北関東の乾いた冬と東国の兵の不器用さ、団結力を感じさせる淡々とした、けれど埋火のような熱を感じさせる描写がツボりました……!


◆すと世界さん「業火に咲く花」

北条氏はわかりますが、三浦氏となると……な歴史不勉強者ですすみません!
なので、前半に紙面を割いてここに至るまでの経緯が記されていたのはとても有難かったです。
時は乱世、一門を生かすためには手を汚すことを厭うていられない時代であったにせよ、近しい血縁者を裏切り、死に追いやるというのは、かなり悪辣(というと、語弊があるかもしれませんが)なのではないでしょうか。
光村の言動を見ていても、かなりの自信家、傲慢で不遜な印象を受けます。祟りや生霊を信じて念仏を唱える人々も多い中、「怨霊に恐れをなしてどうする」とわざわざ大魔縁となった崇徳院に会いに行ったり、そこで過去の悪行を見せつけられ、人の業を説かれて震えあがっても、まだ強がってしまうのは、やはり彼自身止まることを恐れ、魔縁の言う業の深さに怯え、怖いと認めることは己の過ちを認めることだと、墨汁の雨と黄色い蝶の幻影に苛まれつつも最期まで強がるしかなかったのかなあ、と想像しました。

唐橋さんの作品にも登場した、因果応報という概念をこの「業火に咲く花」にも強く感じました。
らんが唱える念仏は、光村だけでなく武家社会という業の深い大きなものに向けられているのでは、と思います。


◆向日葵塚ひなたさん「歌え、連ねよ花の笠」

一揆、というと、命がけの決断であるとか、どうせ死ぬなら一矢報いてから……というような、まさに窮鼠猫を噛む、というイメージがあったのですが、この作品で描かれている一揆は何だか非常に和やかでした。
道後温泉の湯が止まって、当人たちが必死なのはわかるんですが、飢饉が心配されるとはいえ、畑仕事と源泉採掘を並行してできる、ある程度の食べものはあるという状況ゆえかもしれません。

また、是光や梧昌、湯顔たちが村に愛着を持っているということが本文のそこここから感じられ、年貢の取り立てに来たお役人も温泉のことを思えば強く取立てできない様子で、神の湯がいかに人々にとって重要なものかが伝わってきました。
「必携~」によると地震とその後の村人たちの団結、復興への希望も、震災になぞらえて書かれたとのこと。殺伐とした中世にあって、まさに温泉地のようにほっと息をつける物語でした。
ああ温泉行きたい……!


◆上住断靭さん「銀蛇」

織田のしょんぼり次男坊・信雄と伊賀とくれば和田竜「忍びの国」で予習済みです。←こういう、何らかの形で関わったことのある時代、人物が登場すると、やはり取っつきやすいです。母の実家が伊賀上野ということで、勝手に(何度目かの)親近感を抱きました。

概要は予習済みなので、正統派時代小説といった雰囲気を楽しむことができました。伊賀勢は一度は織田の侵攻を食い止めるわけですが、いったいどうやって? と。
もしかして「日本史C」を読み始めて初めて時代背景に沿った(でも偏ってる)知識を持っていた作品かもしれません。
楽しみにしていた百地三太夫の忍術は、まさに「そうきたか!」と目を丸くするようなものでした。一朝一夕に為し得ることではなく、忍術の集大成の名にふさわしい大がかりな術で、しかもそれを「忍術は一度見せてしまっては、二度は利かぬ」とあっさり手放してしまえるなんて。
「勝ちすぎた」ことから次は信長本人が伊賀攻めにやってくると読み、勝利に酔いしれる中でも次の布石を打っているところや、文末の「解説」にあった責任を百田にそれとなく押しつける腹黒さも含め、百地三太夫の人となり、楽しませていただきました。


◆狩生みくずさん「奥州女仇討異聞」

人形浄瑠璃の題目をもとにアレンジされた作品とのこと、仇討ちは江戸時代ならではのイベント(といっていいものか)ですが、異なる背景の登場人物が寄り集まっていきいきと会話している、というのはこれまでの「日本史C」の作品にはなかった物語ですね。
特に、おしのちゃんの勝気で健気なところがすごく可愛いです。方言もいい味を出してると思います。
脳内で勝手に、和月伸宏さんの絵に変換して読んでいました。

また、図書之助の系譜を遡れば……というくだりや、姉妹のおとっつぁんは忍びでした、と明かされるシーンにはたぎりました。
血筋が絶えたように見せて実は……というのは、ロマンですねえ。
仇討ちのシーンは作中では描かれていませんが、鎖鎌と吹き矢の宮さん、長刀のおしのちゃん、というのはすごく絵になるなあと感じました。
(仇討ちだし、あんまりキャッキャするのもどうかと思うのですが)





続きはその3で!
もうしばしお待ちくださいませ!



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