#トリカラアンソロ ふんわり感想

氷砂糖さん企画・編集「文芸アンソロジー トリカラ」にお招きいただきまして、月面SF「月のトリカラの人」を寄せました。
校正PDFと献本を読んでのふんわり感想をお届けします。


トリカラアンソロは11/3~5開催のzine展in Beppu4合わせに製作されたものですが、納品が早かったのと、寄稿者のやる気が迸って、10/8開催の文フリ福岡にて先行頒布済、10/28開催のテキレボ6でも先行頒布が予定されています。(webカタログはこちら。)
部数限定で、お買い物代行サービスにも対応しておりませんので、ぜひともzine展でお求めください~!zine展のお買い物代行サービスには対応予定とのことですので、発表があるまでお待ちくださいませ。
(ちなみにその後、「灰青」でもお預かり予定です。関西方面のトリカラは任せな!)(?)


●凪野基「月のトリカラの人」

月面都市建設のために月で作業するチームのムードメーカー、バンリが「トリカラたべた~い」を歌います。私にしては珍しく、少々年季入ったボーイズがわちゃわちゃしてるお話。女子もいるけど。強いけど。
後書きのテンションの低さが笑えます!(たまさんのコメントと比べてください……)


●谷津矢車さん「芦野啓介の憂鬱」

谷津先生は歴史作家さんという印象なのですが、ガッチリSFで驚きました。私の「トリカラ本にSFをぶっ込んだら、誰ともネタかぶらんじゃろ」という浅慮が破れたばかりか(いや、ネタはかぶってませんが)並べられるという鬼編集っぷりに私のチキンハートはずたぼろですよ。慰謝料を請求する!

……というのはさておき、シンギュラリティ以降、「執筆AI」なるものが登場した時代に、クラウド上で発見された「夏目漱石以来の大型国民的作家」芦野啓介氏の未発表原稿をめぐっての考察と論争……という内容で、いったいどこにトリカラが?と首を傾げたものですが、そこはそれ。トリカラが重要なファクターとなって、考察は結ばれます。
ミステリではないけれど、とことん客観的に書かれていて不思議な読み口。


●海崎たまさん「トーコのトリカラ弁当」
怪奇やホラーを幻想的に描き出し、硬軟の球を自在に操るたまさん。餅は餅屋的「音楽」を絡ませたお話です。
校正PDFを読み進めながら、完全にメンタルが息絶えましたね……。なぜこの並び!?鬼編集!鬼編集!慰謝料(略)

夕方の真っ赤な太陽に照らされて「しぬ、しなない、しぬ」とリズムを刻みながら花びらをむしるトーコ。タイトルからほのぼの人情噺を予想していたのですが、大きな路線修正を余儀なくされます。
絶対音感(でいいのかな)を持つトーコにとって、街のあらゆる音は「音楽」。それらに興味を持って行かれないように家路を辿る彼女がすれ違う僧侶の一団。僧侶はトーコのお家のお客です。
トーコがお客である僧侶に振る舞うのが「トーコのトリカラ弁当」なわけですが、夕暮れ時の不吉さを切り刻みなぎ払うトーコの手際がまさに音楽的(たぶんきっと、グールドのゴルトベルグ変奏曲が鳴ってる)。僧侶とトリカラの組み合わせにも注目です。
過去作とは少し違ったたまさんの作品、おいしくいただきました。


●豆塚エリさん「かげぼうし」

豆塚さんの作品は詩しか読んだことがないのですが、短編小説であっても流れる空気は同じ、しっとりと艶のあるものでした。「かげぼうしがとよとよと溶けていく」という言い回しはまさに詩の方だなあと思うのです。
逃げているつもりがいつしか逃れられなくなって、夢中になっていることを認めれば、その夢は醒めて日常の一部分になってしまう。そのあやうい均衡にトリカラというまるっきりの日常が寄り添って、だからこそ一線が強調されるのかな。


●七歩さん「天使のトリカラ醤油味」

少年と、天使のような団地妻と、夏休みの宿題。旦那さんがお仕事で家を空けている間に少年はまんまと団地妻と二人きりになって、おいしくいただいてしまうのでした……!!(嘘は書いていません!断じて!)
(このあたりまで来て、ようやく自作がトップに置かれることに対しての赦しを感じ始めたり)

七歩さん流のふんわりしたソフトフォーカスの世界にあって、トリカラの現実味だけが強烈に胃袋を刺激してくる、匠の短編です。
食べること、生きること。おいしく食べたいよねえ。このあたりもすごく七歩さんだな!って。ちなみに私も小麦粉片栗粉ミックス派です。


●流歌さん「フラワー」

引き続き、トリカラに用いる粉論争。初めての小説とのことですが、すごいクオリティですよ。これすごい好き。甘酸っぱい青春!しばらくはトリカラを作るたび、泉は花ちゃんのことを思い出すんだろうなあ。
どきどきそわそわ、気もそぞろの書き出しと、いざ再会の時を迎えても構えていたほどには動揺しなかった(きっと強がりも込みの)結びの差が頼もしく、いとおしい。


●まるた曜子さん「旅連れの叙事詩」

テキレボ新刊の短編集「庭常のサフトに小指をひたして」を一緒に読むとさらに楽しめるのじゃないでしょうか!(にこにこ)
ジャンルとしては終末SF……なんでしょうけど、あまり悲壮感はなくて、それはすごく良かったな。とはいえ、描かれる人間とか生命とかの話はガチすぎるほどガチで、それでも生きていく、と選ぶヒデトはやっぱりまるた作品の子だなあって、いちファンとして嬉しかったです。
まるたさんもSF者だから宇宙間播種……ざっくり言えば宇宙旅行の厄介さ(小説で表現するにあたって、という意味ね)はよくわかっているはずで、そこをクリアするためにウムというシンギュラリティの向こう側の存在を持ってきたのはさすがだなーと思います。私がウム好きなんだよね!という一言に尽きるんだけど。
舞台は違っても、確かにまるた作品。現代ものやファンタジーのまるたさんしか読んだことのない方はぜひ。


●空紅桜さん「楽しい日」

酔いの勢いは無敵!の掌編。楽しく酔える、つまり楽しく飲み食いできる相手と場所があるってことで、何よりのことですよ。


●氷砂糖さん「レモンのひととき」

こおりさんとの出会いが伸縮小説だったので(もちろんめたくそに打ちのめされた)、伸縮小説を読めるのはいつだって嬉しいものです。
「ああ、だめ。わたし、生きてる」で締められる100文字がどんどん広がり背景が立体感と陰影を持ち、「わたし」が生き生きと動き出すさまは、何度体験しても鮮やかな手品を見ているよう。
それは、切り取る文字数と切り取り方、という道具・表現技法が持ちうる危うさでもあるのだけど、隠れ家のような、避難先のような雰囲気のいいバーでいやな気持ちをリセットする、その手順がまるで儀式で、自分を大切にするための儀式を持つ重要さを思うのです。
もともと弱い(真っ赤になる)こともあって、外飲みは滅多にしないけど、こういうお店、憧れるなあ。


●とりのささみ。さん「トリカラ」

とりのささみ。さんが小説を書かれるとは!というだけで驚きだったんですが、短いながらも、これは絵ではなく文字向けのネタだなあとニヤニヤしてしまった次第です。
スパイスの使い方が絶妙なのは、ツイッターで拝見するイラストと同じ。
これは必見ですよ……!


●穂坂コウジさん「トリカラブルース」

いちばん度肝を抜かれた、というか、読んだことのないジャンル(?)の作品で、新鮮でした。ブルースを書かれる方と聞いて、トリカラとブルースとは??ってずっと「?」だったけれど、それが「!」に変わった瞬間でした。良い読書体験!
フォークをギターのようにかき鳴らすトリカラと素面で対面する夏芽。うさんくささもアルコールに紛れ、トリカラの奏でるフォーク、歌うブルースに酔えるメロディアスな作品。フィクションならではの軽やかさが見事。


それでですね、通して読んだ方にはおわかりいただけると思うんですが、「トリカラ」をテーマにした11作、方向性はまったくばらばらなんですけど、こうして一冊にまとまったときに作品から作品へと繋がるバトンがちゃんとあって、11作できちんとリレーができているんですね。穂坂さんからトップの私にも繋がるものがあって、これはもしや神編集なのでは?ってやつですよ。(さっきまでさんざん鬼編集とか罵ってたのは気のせいです)
ふだんの執筆ジャンルも、活動の場所も別なのに、お題「トリカラ」とは別にこうして共通するものがあるのは凄いなあ、と思うのです。
なにがどうリレーされているのか。どうぞ実際にお手にとって、お確かめください。
きっとご満足いただける一皿です。
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