おっさん×少女アンソロジー「掌を繋いで」感想その2 #掌繋

お待たせしました、後半戦です。
ささ、どうぞ。


「白の少女と死にたがりの男」巫夏希さん

自死を選ぶ「俺」の前に現れたハイテンションな死神、要するに「私の目の届くところで勝手に死を扱うな」……うん、プロポーズですね! 白いワンピースだし。
エルーに出会ってからの「俺」が人生を謳歌し、満足して死の床に就いているのは「俺」自身の気持ちのありかたや行動ゆえで、エルーが死神としての力をふるったからではないのであっても、転機と結果だけ考えれば「俺」の充足はエルーに出会ったから、なんですよね。


「雷神の花嫁」蒼山れいさん

まさに雷のごとき苛烈さを覗かせるエルトリードと、その威容に怯むどころか、隙あらば爪を立てて叱咤激励のひとつふたつみっつばかり飛ばしそうな市井の少女アディール、このスリリングなコンビでどきどきします……好きなやつです……。
いくら賢帝の名を轟かせようと、果断の人であろうと、強いばかりの人っていうのはいませんから、陰になり日向になりエルトリードを支えるのであろうアディールもまた傑物なわけで。違う種類の強さを備えたカップルってもうたまりません止まりません。


「こいねがう夜半」作楽シンさん

静かな描写の中に、互いが互いを思いやる気持ちが切々と綴られていて、それがとても上品かつ程よい甘さで、精緻な上生菓子を味わっている心地。
兄の死に伴って降ってきた家督問題、苦い記憶と共に生き別れたままの姪。五年前の繰り返しである夜の畦道、杏衣からの二度目の言葉に、今度こそは逃げ出さずにいられたのは「俺」の成長か杏衣の真摯さかそれとも退路を断たれた状況ゆえか。ともあれ、向き合うことを選んだ二人が静かに慎ましやかに、幸せに暮らす様子が目に浮かびます。


「おっさんと呼んでみろ」斉藤ハゼさん

「ニヤア、という擬音の似合う粘着質の笑み」を浮かべつつ、ドミノ倒しを見つめるようにして読んでいたら何とオセロだった! という、すぱーんと攻守ひっくり返った瞬間の爽快感というかヒャッハー感に小躍り。役者として歩んできた吾妻と、アイドルグループのセンターとして脚光を浴びるまりんと。立つ場所、見せる相手は違っても、作ること装うこと演じることは同じ。その下に素顔の人間がいることも。
時々足をもつれさせながら、ああでもないこうでもないと言いつつ二人三脚でスターダムに駆けあがれー!(吾妻さんの脳内映像はたけのうちゆたかでした……)


「殺し屋の朝、パーティーの夜」宇野寧湖さん

スキンヘッドグラサンアルマーニの殺し屋、むくつけき狙撃手、殺し屋志望のお嬢さん、という図そのものが正義! 甘党でミロ好きのヴィンセント、お父さんの恋人のエリオ、気が強くて快活だけど年相応に多感なところもあるミミ、殺し屋以外の共通項などないように見える凸凹ぷりですが、うまく噛みあってるところがいいなぁ。もちろん、ほのぼのしてるだけじゃないでしょうけど。
どれだけ血が近しくても、心が近くにあっても見えているものはそれぞれ違って、それを受け入れられることが独り立ち、ということなのかな。コミカルで華やかな物語、ほんのり苦みが残るところがまた素敵。


「朔望月花」南風野さきはさん

おっさんと少女が会話するまでの描写だけでどんぶり飯お代わりできそうなほど。濃密で色気があって、でもくどすぎず品があります。二人はおっさんの言うところの「怪物」の片割れであり、番人……というか、封印のような存在なのでしょうか。この辺りを想像するだけでお腹いっぱいですが、人のそれを凌駕する力を持つであろう「怪物」たちに気取られぬよう密やかに逢瀬を重ねる、とかおいしすぎて別腹です。月夜と降り注ぐ花びら、冴え冴えとした光景に一刷きの甘やかさ、それが失われた時の静寂がしんしんと胸に降り積もるよう。


「紅蕾」Nagisaさん

主従、かつ殿と忍び……!! これはよい球です、文句なしのストライクです。ストライクゾーンが広い自覚はありますが、おさしょうの可能性が無限大であることを改めて思い知らされました。
蕾の一途さに支えられ考えを改める主様が可愛いです。もう戦なんかやめて幸せになっちゃえよこのこのー! と肘でつんつんしたくなる感じ。


「蕾の頃」梅川ももさん

中学校の卒業式……かな、由くんが保護者として出席しなかったのは気後れのためか、それとも由くんの側も由夏のことを肉親として、ではない思いで見ているのか。とすると「蕾」が前の「紅蕾」と同じ意味になってキャーけしからんもっとやれ!(セルフ火に給油)高校は女子高な気がする。うわあ純粋培養、現代版紫の上!
自分では近親ものって書かないのですが、良いものですねえ。


「ひとりの足音は凛として」上出芙海さん

手を繋ぐことが愛情なら、繋いだ手を離すこともまた愛情なのだと思うのです。目に見えない紐帯がちゃんとあるってわかっているから、ハクトも那都子も離別を選べるわけで。ふたりで歩いてきたこれまでの時間は、ひとりで生きていくこれからの時間の礎になるべきもの。召し上げられても、那都子はきっとうまくやっていくんじゃないかなぁと思います。


「この世でもっとも美しい愛情」とやさん

元軍籍のおっさんとあやかしの少女。絵になりますね……(うっとり)
人に化け、人に助けられ育てられたとはいえ、あやかしの本能までは変えられぬもの。少女は人をたべたいと欲するあやかしの心と、七瀬への恩義の狭間で苦しんでいたのだろうと思います。そして七瀬を食べること=人としての暮らしを止めることだから、それでも人として七瀬と過ごした日々を忘れるわけではないのだと、唯一の日に晴れ着を着たのかなあなんて想像してしまいました。


「チープエンドから逃避行」佐々野ヒロさん

美しさは罪。国を傾け男たちを破滅させ、人々にハッピーを与え、少女自身を不幸にする。古き価値観、固定観念をぐーパン一つでぶち壊し、我らが赤ずきんは自らが幸せになるための最高のエンドを勝ち取りにゆく。
たじたじのオオカミさんがスレてなくて可愛いです。……と見せかけてあちこちで王子たちをけしかけていたのがオオカミさんだったらさらに良いです……!


「The Girl Is A Tramp」小町紗良さん

時の流れは非情なもの、美青年もダンディズムをほしいままにするマフィア系おっさんになってしまうわけですが、セシリアがダンディズムに開眼してくれて、そうでしょうとも……と菩薩の笑みを浮かべつつ読みました。
可愛らしいお話なのですけど、「浄水器のセールスマン」とか「ティファニーのレプリカランプ」とかディテールまでハイセンスできらきらしていて、本編の「メリー・ハッピーエンド」もぜひとも読みたいです!(時々情報がRTされてくるのを指をくわえて見守る系)


「ヴォルフルが、微笑んでいた。」八重土竜さん

かさかさした手触り、色褪せたようなイメージの物語が、ラスト一文ではっと色づくさまが素敵です。
自分のものをほとんど持たず、メンテナンスに必要な道具と魔法駆動のアイゼンの手だけをひいて列車に飛び乗ったヴォルフルの、アイゼンが自分を見捨てないという確信が、潔くて哀しい。


「空き地の山羊」オカワダアキナさん

この叔父さんは掌繋中随一のダメなおっさんですね……だがそれがいい。彼にはダメ男道を極めてほしいな。とまあ、こんなふうにダメさを愛でられるのも私が外側の人間だからで、琴美も叔父さんも息苦しい、生き苦しい世の中だよなあとも思います。「地球に生まれるんじゃなかった」という冗談めかした一言に込められた気持ちを思うと、その繊細さが愛しくもあり、もう少し気楽に生きなよなんてとてもじゃないけど言えない。
いなくなった山羊は、ふたりにとって希望なのか、それとも数少ない特例なのか。どこへ行っても、どこで生きようとも囲いがなくなることはないだろうけれど、ゲーセンのような安全地帯が見つけられるようになればいいのに、と思います。笑ってみてもいいなと思えることが増えればいいのに、とも。あるいはそれが、大人になるということなのかもしれません。


「荒野にて」いりこさん

待っててね、とおじさんの背を追いかけるかたちで始まったこの「掌繋」がこのお話で終わることの素晴らしさについては、読了した皆さまはすでにご存じのことと思いますが! ハイ来た! 王子様を両親に紹介! 海辺の結婚式! 大きなリボンつきの白いウェディングドレス! おめでとうございます! 追いついた! 追いついたよ!(フラワーシャワー)
全部予定ですが、来るべき未来に必ずや実行されることでしょう。
マイペースで陶酔型のノア、「砂糖ちゃんと入れてね」がめちゃくちゃ可愛いです。いろいろおませなことを言ってても、まだまだお子様。そしてそれに応じるアズノ、ちゃんと呼吸をわかってる感じで、ツッコミもまるで夫婦漫才。結婚式にはぜひ呼んでください。




以上です。
長さはもちろん、世界観も関係性もジャンルもばらばらのおっさん×少女、堪能しました。
書き手の皆さん、イラストのトナミショウさん、そして発起人の飛瀬さん、有難うございました!
おさしょうの可能性は無限大!
テキレボ4でも企画が動きそうで、今から楽しみです。

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