#テキレボアンソロ 「猫」感想その3

お待たせしました、テキレボアンソロ「猫」感想その3、最後まで全部です。
前についったでも呟いたけど、斉藤ハゼさん「しあわせな猫の飼い方」とセリザワマユミさん「チーのはなし」が並んでるのは出来すぎてないですか!? これ泣かずに読めないんですけど!(机ドン)


『神様』雲鳴遊乃実さん(創作サークル綾月)

今回のアンソロ掲載作の中では、一番好きな作品でした。二人称小説は好きなのですが、書くとなるとすごく難しいので敬遠気味……。この作品、究極の二人称小説とも言えるんじゃないでしょうか。
子猫の成長、人との関わり、死の恐怖と孤独。宗教や信仰を越えたところにある根源的な欲求と、原始の記憶。言葉など意味をなさない、混沌そのものの本能、自立を描いた傑作。


『日常回帰「猫の足音」』霧木明さん(My set-A)

猫と話す愛煙家の死神、ニヒルで我が道を行く感じがカッコいいです。増税で懐が圧迫されたり、服が経費で落ちなかったり、なかなかに世知辛いところもあり。猫がすり寄ってきたのではなくて、人間が助けを求めてきたとかなら関わり合ってなかったんだろうなあ、とぼんやり思います。世界が滅んでしまっても動じず、飄々としているのも素敵。


『猫マンのライジング』進常椀富さん(創作サークル綾月)

猫マンおさむ、何じゃいなと思ってたら普通にヒーローじゃないですか!
(何故に猫+おっさんスペックなのかという疑問は残りますが)六年生男子の地味に鋭い言葉の暴力にへこたれつつも、正義感は人一倍。他にもHOPEがいるって、波乱の予感しかありません……。


『我輩はセンパイである』西乃まりもさん(a piacere)

頑張れお兄さん! 来人とナオのコンビもすごくよかったですし、ポンスケのセンパイぶりも可愛かったです。来人の一人称で語られるお話が違和感なく小学生のスケール感なので、物語にすっと入っていけました。


『猫を彫る』氷砂糖さん(cage)

謀殺された大帝の愛猫と、ライオンを彫るという依頼とともに持ち込まれた大理石。時代も国も異なる二編のそこはかとないリンクが想像をかきたてます。大理石の赤みは帝の血? 「私」が見た彫るべきライオンは帝の猫? そして「私」こそが帝の……? いくつもの示唆が「もしかして」という形で二編をつなぎます。読み手によって解釈が違いそう(そのどれもが氷砂糖さんの意図と異なっていそう)だけれど、どの読まれ方も許容されるような、そんな懐の広さも感じます。幻想的な物語、ラスト一文がはっと胸を衝きます。新生児の泣き声って猫に似てるんですよね。


『ありきたりな猫』伊織さん(兎角毒苺團)

冒頭で「ありきたりなどこにでも居るふつーの猫」と自己紹介してくださるソラさん、おしゃべりが進むにつれ「ありきたりとは?」「ふつーとは??」とツッコミ不可避ですが、ソラさんの見てきたものの大きさがいっそ愉快です。それをソラさんがちっとも気にしていないところも。手触りの良い、心地いい幻想譚。


『ねこといぬ』水成豊さん(倉廩文庫)

甘い! すごく甘い! ごちそうさまですお腹いっぱい! おいしいごはんのあとの極上デザートのような、甘みとキレがぎゅっと詰まった一編。うん、それで、何を買いに行ったのかなぁ?(笑顔で)


『Only a white cat knows』姫神 雛稀さん(春夏冬)

バディもの、そして異能バトル! 燃えますねー。設定もしっかりと作られているようで、今回はあまり語られなかった敵方、千夜鐘サイドの事情も気になります。


『猫と女人』高麗楼さん(鶏林書笈)

譲寧大君の逸話は、何とはなしにこういうオチを迎えるのではないか……と予想しながら読んでいて、そしてめでたしめでたしとなったわけですが、最後の李大統領のパートでの二段落ちには唸らされました。国政の中心人物だけが優れていればよい政治ができるかと言えばそうではなく、やはり優秀な人材、時には苦言を呈し、諫言してくれるような人物が必要なのでしょうね。


『シュヴァルツカッツェ』そば猫さん(息を吐くように死に絶える)

常識や論理を越えたところで事件は起きる。当日、会場に行けないのですがワインボトルは見てみたいなあ。


『南泉さんの猫事情』藤木一帆さん(猫文社)

ああ、ここにも猫好きなのにままならない現実に身悶えしている方が!お宝ざくざくと噂の徳川美術館の片隅に、こんな微笑ましい一幕があったなんて。刀のゲームのブームが落ち着いたら、是非一度訪れたいものです。


『Black Cat』天川なゆさん(七夕空庭園)

夜の黒猫の恩返し。情けは人のためならずというか、無意識の善行が巡り巡って我が身を助けるというか。ほっこり心温まる物語。


『流星猫と狩人』とやさん(さらてり)

冬の夜、満天の星空から降るひかりの猫。幻想的でとても美しい光景なのに、生きていくための資源として猫を狩らねばならない残酷な現実を目の当たりにした少年の逡巡と躊躇、良心の呵責が寒々しく苦しい。彼もまた、この苦みに慣れ、麻痺してしまって、平然と引き金を引けるようになるのでしょうか。


『私と僕の異世界旅行記~猫編~』黒塚朔さん(Neumond)

番外編なのでしょうか、いくつも世界があってそこを行き来(?)するうちに出会った二人の掛け合いが可愛いです。猫の居る世界、居ない世界。常識も知識も少しずつ違うけれど、誰かを想う気持ちは共通のもの。


『幻灯京奇譚』神楽坂司さん(MATH-GAME)

短い物語ながら、作り込まれた世界観とそれをスムーズに提示する運び、「私」の口調や言葉の端々から察せられる酩酊とインモラルの香りが見事。計算づくのようで、憑かれたように書いたようにも思える幻灯京の世界。ニヒルさと「私」の気ままさが良い味を出しています。


『Help me!』宇野寧湖さん(ヤミークラブ)

「零点振動」の番外編。槇先生と羽鳥さんの、きわどいバランスを保った関係がたまりません……! どこか歪で、だからこそ愛おしい。猫をめぐる騒動を経て、二人の距離が変化するのかと思いきや、虚無に突き落とされたかのようなラストシーンが絶妙。


『とある猫の半日』香月ひなたさん(月日亭)

実に猫らしい猫! ときにふてぶて……もとい気怠げに、ひなたで微睡み、人間の相手をしてやり、いそいそと集会に出かける猫。何でもない半日の描写から浮かび上がる、猫だからこその気紛れと優しさが素敵。


『空を見る使い魔、地で眠る使い魔~大魔法使いモルドラの二匹の遺産~』維夏さん(砂色オルゴール)

魔法! 使い魔! ファンタジー! 長編の導入のように、コンパクトに見せ場がまとまっています。ほのぼのファンタジー、その一方で不穏な気配。キーとなるのはわけありの白猫。壮大な物語を感じます。


『コネコビトカフェ開店の日』相沢ナナコさん(タヌキリス舎)

不思議な路地のどん詰まり。コネコビトがひとりで待っているちいさなカフェのお話。童話風のやわらかな筆致、その中できらきら光る「おいしそう」な数々の描写。こんなカフェがあったらいいなって思う人だけが訪れるのでしょう。カントリーマアムは正義!


『かぎしっぽの猫を追って』ななさん(7's Library)

かぎしっぽの猫にまつわる断片を取り上げて矯めつ眇めつ。パズルのピースがぴったり合うかのように思えて、何か足らないようでもあって。かぎしっぽを追って不思議の路地へ入り込むようなお話。路地の先に救いや希望があることを祈りつつ。


『里帰り』轂冴凪さん(うずらや。)

前回のアンソロのラーメンを思い出してお腹が空いたなあと思いながら、友を誇らしく思う気持ちと宇宙が隔てる時間の残酷さ、それを乗り越えてゆく友情。胸熱です。外見からは同い年と思えない差ができても、内面はかつてと同じように。


『或る黒猫裁判の速記録より』濱澤更紗さん(R.B.SELECTION)

利権だ悪魔だと何を仰っているのか、と首を捻っていましたが「黒猫は便利」のあたりでああなるほど、とニヤリ。人よりも犬よりも確かに便利です……お世話になってます。


『小春日和のころ』平坂慈雨さん(みつたま)

不思議なたたずまいのコーヒースタンド「三角の店」のとある一幕。「准将のところにはメスしかいないと思った」って、辛辣ながら准将の人となりを端的に表してていいなあ、とツボったのです。会話文がスタイリッシュで素敵。小さな魔女と金眼の黒猫。魔法使い組と軍の人間であろう准将との関係など、本編がとても気になります。


『黒い猫』乃木口正さん(妄人社)

濃厚ミステリ、再び! この文字数で本格ミステリ。タイトルの「黒い猫」は作中に登場する作家の飼い猫のことでもあり、そして……ということですよね。ミステリ好きさんはぜひ。


『しあわせな猫の飼い方』斉藤ハゼさん(やまいぬワークス)

すごく切ない……。猫として厳しい環境で暮らすのか、それとも飼い猫として人為的に種としての「猫」のいくつかを放棄して餌を与えられ、家という檻の中で飼われるのか。どちらがしあわせか、それを判断して決断するのは当の猫ではなく人間で。ヨウとせり子の暮らしも何だか危うげではあるけれど、しあわせって何、とシンプルな問いにはっとします。


『チーのはなし』セリザワマユミさん(トラブルメーカー)

「~な猫だった」の繰り返しがぐいぐいと胸に迫る、チーとの思い出。これがアンソロのラストを飾ること、そして斉藤ハゼさんの作品と並んでいるのは偶然ではないと信じています。猫を愛でたくなる、めっちゃいい話。




以上です。
色も形も手触りもさまざまな「猫」、堪能しました。猫飼ったことないのが人生における損失のような気がしてきました……。
自分で書くのは犬の話が多いですが、犬も飼ったことありません。
なので、たぶんきっと偏見まみれだろうなと思うのですが、作者さんに届きますように。

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