#テキレボアンソロ 「猫」感想その2

アンソロ「猫」感想その2です。
今回は庭鳥さん『高殿に座して』から青銭兵六さん『変人伯爵のこぼれ話』まで。
ではどうぞ~。



『高殿に座して』庭鳥さん(庭鳥草紙)

短い作品ながら、描写の端々まで行き届いた気配りが醸し出すしっとりした夕暮れの空気感が素晴らしいです。鮑玉、は真珠のことでしょうか、ふくふくとした子猫の首もとに控えめに輝く様子が目に浮かぶようです。(知識不足なのでそれなりに、ではありますが)


『赤い瞳』藤ともみさん(藤つぼ)

孤独なジャックと猫のほのぼの触れ合いかと思いきや、持てる者と持たざる者、奪う者と奪われる者の隔絶が描かれ、不穏な結末を迎えています。ジャックと王子が同じ瞳の色というところや、ラストの赤い瞳など、長編の番外編なのでしょうか、語られていない背景が気になります。


『どれが元祖で本家かわからないけれど、あの日手に取ったそれは確かに偽物だった』こくまろさん(漢字中央警備システム)

パチもん、ダメ絶対。初代ゲームボーイや初期のスーファミの頃にはものっっすごい不条理ゲーとか鬼畜難易度ゲーとかゴロゴロしてましたね……(遠い目)


『『猫に関する考察』より、名前について』海崎たまさん(チャボ文庫)

前回のアンソロ掲載作を拝読して、作品のセンスや語調、作風の手触りにメロメロになってしまったのですごく楽しみにしていました。上品な翻訳文学のような艶と、そこはかとない背徳感、気まぐれなのは猫だけではなく。この悪魔的な少年の魅力……! ほんと、たまりません。


『一生、毎晩。』笠原小百合さん(文芸誌「窓辺」)

甘酸っぱさより、切なさで心がキュッと縮むよう。ニャン太への恋心が純粋すぎて、気持ちを切り替えることに慎重になりすぎている「わたし」の心の時計が動き出すのはいつなのでしょうか。終わらない冬、記憶の銀世界に心穏やかな春が訪れることを祈って。


『落とし物』藍間真珠さん(藍色のモノローグ)

天真爛漫なチャロと睦美ちゃんとの対比が鮮やかな博士。彼が単なる物知りな野良猫ではないと明かされる中盤以降の展開がややヘビーですが、チャロの明るさ、優しさに救われている気がします。


『花咲く頃には』風城国子智さん(WindingWind)

色鉛筆で丁寧に描かれた絵本のような世界観。コウサの言葉がないからこそ、より一層悲しみがひきたつように思います。花壇のチューリップが咲くのを、黒髪のコネコもきっと楽しみにしているんだろうなあ。


『黒猫奇譚』右月泰さん(創作サークル綾月)

野間みつねさんと同じく、沖田と黒猫を題材にしていますが、こちらは黒猫視点ということもあり、伝奇風の味つけです。沖田の、人(猫?)当たりの良い中にも離脱せざるを得なかった無念。……もしかしてこの猫、義経や沖田の怨念のようなもので長生きしているのでは? と薄ら寒さも覚えつつ。


『ミケを探して』小高まあなさん(人生は緑色)

幽霊のマオ、猫探しをがんばるの巻。機嫌が悪かったのに女の子に頼られて俄然やる気になったり、隆二に甘えたり、感情の起伏が激しいのがまさに猫っぽいです。誰にも存在を認めてもらえない世界で生きる(幽霊だけど)マオにとっての隆二の存在の大きさたるや。


『猫邑』星谷菖蒲さん(創作サークル綾月)

人畜無害なように思える「僕」ですが、こんな不思議体験をするということは、実は何か良からぬことを考えていて(あるいは実行していて)、でも薄茶猫を気まぐれか何かで助けたことがあって……? など、勝手に想像を膨らませてしまいました。


『完成!猫型機獣試作機』迫田啓伸さん(侍カリュウ研究所)

どうしてか招き猫型にしか思えない……。オチまでしっかり笑わせていただきました。そして、猫ビームとカニ光線が登場した某お船のゲームを思い出したりしたのでした。


『おさんぽや』猫春さん(ばるけん)

単に「おさんぽ」するだけじゃなくて、日々の気忙しさで失念していた心のひっかかりをほぐしてくれる、ほっこりするお話。田中さん、研修中だけど優秀だなあ。「おさんぽ」の後は身も心も軽くなってるに違いなく、なるほど大切なお仕事です。いいなあ、おさんぽしたいな。


『まこと』八重土竜さん(七人と透明な私)

静まった校庭、沈みゆく太陽、猫を連れ帰ろうとする少女。めちゃくちゃ不穏で、「猫と少女」の組み合わせが禍々しくも魅力的。


『狩人』鳴原あきら(Narihara Akira)さん(ボーイミーツアラブ)

能ある鷹は爪を隠すと言いますが、優秀な狩人は自然体のまま、ゆっくりゆっくり獲物に近づいて、油断せずにじっと機会を待てるのだなあと、そんな見当違いのことを考えていました。引き金をひく時、それは勝利宣言に等しく、獲物を捕らえた確信はとても美しい。百合なのがさらに素敵だし、百合百合しくないのがもっともっと素敵。シャープでスマートな大人の掌編。


『善人を食らう悪魔について。』十一さん(StrangeGhost)

世界から悪が絶えないのは、悪魔が善を食らっているから。烏と黒猫、悪魔という不吉トリオが心理的に不気味でした。「私」は魂を食われてしまった=悪人になってしまったのでしょうか。すっきりしないまま終わるラストが、いっそう不気味さを増幅しているようです。


『又八物語』奥田浩二さん(un-protocol net)

お馴染みの、アレから生まれたソレがコレして……ん? というごった煮コメディ。乙姫様、やるなあ(笑)もうホント「若いもんはええのう」ですよ。めっちゃ笑いました!


『化け猫クロ』天野はるかさん(HAPPY TUNE)

化け猫になって噛みついた相手を殺せることよりも、天界で竜に飼われることのほうがだいぶ大事のような気がするのですが、竜の兄弟のほのぼのした空気にうやむやにされてしまったような。さすが大物。人になるより、寒くなくて飢えない猫の方がいい、というのはまさに猫らしくてほっこり。


『傍らのしあわせ』桂瀬衣緒さん(SiestaWeb)

ひろちゃんがほんといいです。出オチだって桂瀬さんは仰るけど、「だがそれがいい」とレシーブしますよ! 空行による間の調節や前半と後半でのテンポの違い、そんな丁寧な作りが温かみを作っています。名作ですよ!


『飴と海鳴り』オカワダアキナさん(ザネリ)

逃げ出すように家を出てきた郡司の住まう寮にやってきた猫。猫との距離感は姉とのそれとはまったく異なっている。猫との共同生活に慣れた頃の、突然の喪失。「心臓が左にあるからなのだろうとぼんやり思った」のくだりが好きで好きで。磯のにおい、重い海風や曇った白い空の様子が手に取るように感じられるところも素敵。本編が楽しみです。


『クレイズモアの幽霊』たまきこうさん(Couleurs)

アンガスのキャラクターも、全寮制(?)の学園という舞台、すこしふしぎ系の探偵もの、全部ときめきます……。塔のてっぺんに住む「探偵」、規則も無視できるその特殊な役割は、例えばホームズのような職業探偵ではなくて、もしかするとクレイズモア校の「なにか」に選ばれて「なる」ものなのじゃないか、とか想像をたくましくしていました。


『アキとネコ』にゃんしーさん(ボーイミーツアラブ)

ふかふかとやさしい言葉に和む詩ですが、「あかるいものが 空をちゃんとささえてる」「いろんなかたちの しいのみがあるので」「よろこぶか? しあわせ て顔をするか?」「手持ちぶさたに ただからだだけ」ってざくざく刺してくる鋭さもあって。ネコはただそこに居ながら、いろんな真理を知ってるのですよね……。路地から、天使の梯子がかかる区切られた空を見上げて、お家に帰ってココアをふうふうしたい。音読しても楽しくて、娘に絵本を作ってあげたい感じ。


『御猫様祀り』鹿紙路さん(鹿紙路)

ビルのはざまの小山のような御猫様、享保の改革でしれっとご飯がエコモードになっちゃう御猫様(そして痩せる)、「かしこみかしこみもーす」の猫っぽい投げやりさ。そして顕現する片割れ様……! ちゃんと作り込まれているからこそのとぼけ具合がたまりません。


『猫だって恋をする』蒼井彩夏さん(風花の夢)

スズににべったり、ジェラシー全開のトラは可愛いと言うよりもむしろヤンデレぽいかな、と感じました。その執着心が「化ける」方にいっちゃうのかな、と。ご主人ラブの可愛い話なのだろうけど、若干ホラーのように思えてしまいました。すみません……。


『丘の上のありす』ひじりあやさん(CafeCappucci)

児童書がつなぐ、ふたりの少女の友情。人見知りで内気、と自認する月海が外に開かれていく物語とも読めて、本好きとしては嬉しいです。ちょっとしたミステリ風でもあり、こんなふうに「本」がキーワードになるシリーズものにもできるのでは? とわくわくします。


『変人伯爵のこぼれ話』青銭兵六さん(POINT-ZERO)

伯爵めっちゃ可愛いです……! 猫グッズをちゃんと用意しておきながら肝心の猫がメードによってもらい手を探されてしまうところとか。一言「猫飼いたいねん」て言えば済みそうなものを、「飼いたい」→「解体」に解釈されてご主人様ご乱心騒ぎになってしまうのかな……。
長年伯爵のおそばにいるらしいメードと以心伝心のように思えて、微妙にすれ違ってるところもニヤニヤしてしまいます。




次で最後です。お待たせして申し訳ないです……。
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