#テキレボアンソロ 感想その4

お待たせしました、テキレボアンソロ「再会」の感想公開、最終回です。

感想その1
感想その2
感想その3


【オパールグリーンの、たちまち】月洛(un-protocol net)
眠る前と後での自己の連続性、考えたことあります。考えたところでどうしようもないと諦めましたが……(低スペック)白くてふわふわのと過ごす不思議な数日。もしかしてこの白いのは、平行世界の自分を乗り換えるためのものなのかなあとぼんやり。


【迷子と精霊】せらひかり(hs*創作おうこく。)
訳ありさんの旅路。演出がハリウッド級のメリンダがカッコイイです。一度死んだというベリルの苦労性は元からなのかメリンダのせいなのか……。番外編とのこと、本編が読んでみたいです。


【ふたたび、学び舎で。】呉葉(えすたし庵)
娼館の町で女装して暮らすエマ。見事に順応していると思いきや、内心は野望と希望にあふれ、どうにかして自分の力で生きたいと願っている。合理的で頑張り屋さんのエマにエールを。あっ、洒落じゃないですすみません。長編の親世代の子供時代とのことですが、彼らのお話でもどんぶり飯いけそうな気配がします。


【熱煽る風】水城翼(葱文庫)
うだるような熱気の中、昔馴染みの面々とタイムカプセルを掘り返すことに。空白の時間を経ての現状、けれど変わらないノリのやりとり。タイムカプセルに入れたものを手に、友だちと騒ぎながらも再発進のための起爆剤を得たような、静かな熱を感じる作品でした。


【いたいけなぼくとおねえちゃんのおゆうぎ】世津路 章(グルメアンソロ(仮)とこんぽた。)
前回アンソロのふんわりほっこり路線とは真逆のテイスト。引き出しの多さに脱帽です。読みやすく、すらすら読めてしまうがゆえに、一気にラストシーンまで転落してしまうというか、もう戻れない絶壁を感じます。さあ、たのしいおゆうぎの時間。


【百万回のおはよう】八坂はるの(てまり舎)
冬眠し、春の訪れとともに目覚めるゆすると、彼のことを憎からず思うふさこ。ひねくれた思いもまっすぐな思いも、ゆするにとっては春の陽射しに似たものなのでしょう。幻想的で可愛らしい短編。


【電波の届かない街】かわいたかき(砂色オルゴール)
いかに文明の利器に、スマホに頼り切っているか自覚しつつも、スマホなしの生活はもう考えられません。電波障害が回復した途端に息を吹き返す町の様子は、まるで電波こそが命であるかのよう。


【二回目の再会】高麗楼(鶏林書笈)
史実が物語風の解説を伴って語られる、まるで歴史番組を見ているような作品。こういう、地味だけれど密なつながりを示すような、知られざるできごとがもっともっとあるのでしょう。


【あいをこめる】小高まあな(人生は緑色)
愛。「I」、アイデンティティ。それはあるか、そして必要なものか。作中ではアクセサリー作りだけれど、どんなものづくりの世界でも共通ですよね。普段は意識もせず、なあなあになりがちなことを柚香が鋭く問いかけてきます。


【ゆめの境界線】ほた(月兎柑。)
戦死した人々の無念が、子どもの夢になって現れる。ソラとホトの場合は無念といっても、恨みつらみや怨嗟ではなくて、戦友を思う気持ちのように感じました。だからこそ、幼馴染みという近しい間柄で生まれ変わることができたんじゃないでしょうか。


【ラジオと青年】行木しずく(空涙製作所)
蛍石ラジオ、いわゆる鉱石ラジオというやつでしょうか(原理よくわかってません)、蛍石の光る性質を備えたラジオって、そのアナログな感じも含めて素敵ですね。フリマでの運命的な再会、蛍石ラジオから聞こえてくる声。激務で消耗した心に寄り添う温かさ。


【いちばん長い、あの夏の日のこと】堺屋皆人(S.Y.S.文学分室)
心をなくした男と、まるで鏡写しのような存在の男と。失った心の空洞の奥へ奥へと進んでいくかのような、狂気に近づくがゆえに、それとは紙一重である正気に見紛うような。そして赦しと解放。考えれば考えるほど、恐ろしい作品。


【日差しに融ける】小野秋隆(蕪研究所)
陽炎がたつ、うだるような暑さとほのかな憧憬を捧げた少女の喪失。はっきりと描写されていないからこそ残る、ざらりとした「融け残り」のような感触が雪美の未練に重なるよう。東京、その賑わいと複雑に絡み合う道路、猛スピードで行き交う車は、ひとりの少女を飲み込むには十分で。


【彼女の世界は壊れた時計】なんしい(押入れの住人たち)
ごちゃごちゃにもつれた時間を生きるミティカ。正解を選ぶまでの無限回の試行、そしてループ。死ぬことさえも不正解、ただ前に進むだけに思考と出会いを重ねるミティカの明るさが切ない。
(余談:「オール・ユー・ニード・イズ・キル」映画版、大好きです。原作未読ですが)

【終わらない晩餐、進む秒針】とや(さらてり)
上機嫌で大量のご飯をつくる彼女と、何やら気の進まない様子の「俺」。互いにプロとして人生を全うするカッコよさと、その裏返しの無常感が独特の味わい。


【さねかずら】かなた(そりゃたいへんだ。)
夏の日の陽炎のような幻想的な一編。祖父のさねかずらを手入れする葵、祖父を訪れる、あちらとこちらのあわいにいるようなこども。これからもきっと仲良くできることでしょう。
(余談ですが「そりゃたいへんだ。」さんにはどれだけ個性豊かな書き手さんが所属していらっしゃるのか……!)


【午後十時】緋臥 灼(春夏冬)
これが二時間前じゃなく二十日前くらいに書かれていたとしたらすごいのですが(笑)ともあれ、間に合ってよかった。


【星の彼方より】轂 冴凪(うずらやの小金目倉庫)
ハイテクとローテク(?)。宇宙の先の先まで旅するほどに技術が進んでも、地球ではラーメンを啜っている。ラーメンを食べに宇宙から帰ってくるひとがいる、生活と科学技術の近さに、SF好きとしてはグッときます。


【昼の相席】斉藤ハゼ(やまいぬワークス)
あの日のその後。前回アンソロの続きで、非日常が日常に薄められつつある日の偶然。毎日生きてきたはずなのに、いつの間にか時間が経っていたことに対する置き去り感、ネットで得られるたくさんの情報と実際に会うこと、見ること、体験することの差異。そしてそんな今日も昨日に積み重なっていく、けれど揺れる感情はそのとき限りのライブ。


【小さな喫茶店での奇跡】色水良子(春夏冬)
喫茶店の常連さん。まさかのエンカウントにあわや……! でしたが、雨降って地固まるというか、終わりよければ全てよしというか。コーヒーショップではなく、喫茶店だからこその出会いが微笑ましいです。


【二十年ぶりの再会】小稲荷一照(かんだ紅茶倶楽部)
紅茶、飲むけど私の場合、水分と牛乳の摂取でしかないので(もったいないからTBしか飲まないですよ)、ちゃんと知識のある方が羨ましいです。趣味は趣味として、懐かしい味を楽しむ。……ほ、ほうじ茶?



今回もバラエティ豊かな作品に唸ったり悶えたり萌えたり、楽しませていただきました。
イベントはもう終わってしまいましたが、次回開催が待ち遠しいです。

今回のアンソロ、とても分厚いのでつまみ読みされる方もおられるかもしれません。そんな方にも、通して読んでいらっしゃる方にも、「こんなふうに読んだよ」というのが伝われば幸いです。


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